私は人生の中で恩師と呼ぶべき大切な人が何人もいます。その中の一人の恩師が、学生時代に大切なことを教えてくれました。これから社会人になる私に向けて、はなむけの言葉として、松下幸之助のエピソードを話してくれました。下記のサイトから文章を引用します。
【http://100ken-1bun.blogspot.com/2015/04/blog-post_44.html】
「君、食べたんか?」 [松下幸之助]
話:上甲晃
松下政経塾の頃、私が一番心を砕いたのは役員会だったのです。役員会では松下幸之助理事長のもとに人が集まりますが、役員は当時の錚々たるメンバーで、いわば日本の第一人者と言われる人たちでした。テレビか新聞、雑誌でしか見たことのないような人物がゾローっと並ぶわけですから、われわれは大変な気遣いをしました。
とりわけ私が心を砕いたのは”お昼のお弁当”です。「どんな弁当を出すか」というのに大変心を砕いたのです。あらゆる弁当屋さんから情報を集めて、それを一覧表にして、この弁当にはどんな材料が入っていてとか、価格も書いて、写真まで撮って決裁をもらいに行きました。
松下幸之助がずっと説明を聞いていて、最後に一言
「うまそうやな」
と言ったので、私も何気なく
「美味しいと思います」
と言ったのです。
すると松下幸之助の顔が変わりました。
「君…、いま”思う”と言ったな。…食べたんか?」
とこう言うのです。
「いえ、食べてません…」
と言ったら
「なんで大事なお客さんに弁当を出すのに、自分で食べてへんのや?」
と叱られたのです。
「自分で実際に食べてみる。あ~うまい。分量もちょうどいい具合。これだったらきっと喜んでもらえる、と思って出す弁当は、弁当とともに君の心が伝わるんや。君、それが魂の入った仕事やで。君の仕事には魂がはいっていない」
と、こう言うのです。自分で実際に食べてみる。これが一次情報なのです。美味しいなと思う。これが一次情報なのです。
「すべてそういうレベルで仕事をしていかないと、仕事は上滑りしてしまう。そういうレベルで仕事をすればカネ以上の値打ちがでる」
と言って叱られたのです。【引用終わり】
恩師はこのエピソードを話すことで、私に一次情報の大切さを教えてくれました。自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じたことを信じる。それ以外の情報はすべて2次情報、3次情報になるので、判断材料にはしても、鵜呑みにはしないようにする。そのような判断基準で情報を整理していくことを心がけるようになりました。
今から10年前に、『日本の高齢化問題解決にとって、フィリピン人介護士が重要な役割を担う』という仮説を立てて、私はフィリピンにやって来ました。昨年の2019年に、ようやく外国人介護職が日本で働くことのできる、【特定技能ビザ】が新設され、フィリピン人介護士にも門戸が開かれました。しかし、来日の前に、日本政府が設定した介護試験に合格しなくてはなりません。その試験対策のクラスを、私が受け持っています。彼らは半年間という限られた期間の中で、日本語と日本式介護の勉強を行います。日本で働くことを夢見て、一生懸命に勉強をしている彼らの様子を間近で見ていて、私の仮説は正しいのではないかと考えています。それが、日本の介護現場で10年働き、フィリピンの教育現場で日本式介護を教えている、私の一次情報からの判断になります。
特定技能ビザによる外国人介護職受け入れについては、2次情報、3次情報から判断した人たちが、いろいろなことを言っています。情報が簡単に手に入る時代だからこそ、松下幸之助の仰るように、1次情報を丁寧に集めることが大切な時代になってきたなと感じています。恩師からのはなむけの言葉を忘れずに、自分の1次情報を信じて、発信していきます。