断食道場で過ごした日々がフラッシュバックしました。
20代の時のことです。介護施設のお年寄りが入院すると、大体弱って施設に戻ってくるのを目の当たりにして、西洋医学に疑問を持つようになりました。そこから自分なりに東洋医学を勉強して、断食道場に行きつきました。
今でこそ、西洋医学も東洋医学も、どちらも大切だというのは理解しています。しかし、あの時は盲目的に東洋医学に突っ走っていましたね。そして、気が付いたら9日間の断食道場のプログラムに参加していました。29歳冬の出来事です。
断食道場での生活は割愛しますが、間違いなくヘルスリテラシー(自分の健康に責任を持ち、健康的な生活を送るために必要な能力)が向上したのは確かです。
さて、待ちに待った断食道場最終日のこと。道場特製のおじやが出されました。
さして太っていない私が、9日間の滞在で6-7キロ減量しています。意識は研ぎ澄まされているものの、身体は半病人状態です。胃の中はもちろん空っぽ。そんな状態で、おじやを一口、口に含み飲み込みました。その数秒後に、全身から力が湧いてきたのを今でも鮮明に覚えています。
嗚呼、人間は、食べたもので生かされているのだと、心の底から実感しました。
あれから15年経った先日のこと。3年ぶりにマニラにあるなじみの高齢者施設を訪問しました。フィリピン人ケアワーカーの面接のために来比された、施設長らご一行様と一緒です。
フィリピン人特有の明るさは、お年を召されていても健在です。その陽気な雰囲気に触発されたのか、日本からいらっしゃった施設長が、「みなさんはとても元気ですね、元気の秘訣は何ですか?」と質問されました。
私は、「いつも笑顔でいることです」とか、「些細なことでくよくよ悩まないことです」などの、回答を想像していました。すると、開口一番発せられた言葉は、
「エンシュア!!」
でした。医療・介護従事者であれば誰でも知っている、このエンシュア。食事をすることができない時に、栄養をバランスよく体内に補給する栄養剤のことです。
おそらくですが、この高齢者施設は、寄付金で成り立っているNGO法人であるため、経営が安定せず財政的に厳しいのでしょう。入居者は全て、家族から見捨てられたご老人たちです。
もちろん、入居者から入居費用はもらえません。国からのサポートもありません。パンデミック経て、財政的な厳しさは、さらに増しているのだと想像できます。
衣食住が当たり前の日本であれば、元気の源は、精神的な要素に帰結するのでしょうが、その前提がないフィリピンのNGOで成り立つこちらの高齢者施設では、元気の源は、栄養剤なのです。
「エンシュア」と大声で回答してくれたご婦人に、悲壮感は全くありません。さも当然であるかのように、笑顔で「エンシュア」と答えてくれました。
私は断食道場を経て、食べ物によって自らが生かされ、食べ物がエネルギーの源になっていることを十分に理解しているはずでした。にもかかわらず、そのことをすっかり忘れていたことに気づかされました。
「エンシュア」と答えてくれたご婦人に、無意識のうちに握手を求めていました。ついでに写真も一緒に撮りました。一時間程度の訪問でしたが、本当に大きな学びが得られました。